砂の町での家づくりプロジェクトとアマゾンのレポート(建部祥世)


レポートその②→高地アマゾン ティンゴ・マリア(Tingo Maria)より
レポートその③→熱帯アマゾン イキトス(Iquitos)より


Un Techo Para Mi Pais

ペルーの首都・リマでは、安定した職や充実した社会福祉など、より良い生活を求め農村部から流入してきた多くの国内移民たちが、市街地から少し離れたところにコミュニティーを形成している。
今回訪れたのは、リマの中心部から車で2時間ほど離れたところにあるSan Juan de Luriganchoという地区だ。この地区は、リマにある43地区の中でも最も大きく、住む環境、人々、生活の質もさまざまである。

私が今回、この地区を訪問したのは、NPO法人「Un Techo Para Mi Pais」の家を建設するプロジェクトに参加するためだ。1997年のチリで設立され、現在では南米16ヶ国に支部を持つ国際的な団体である。南米諸国の大部分の人々が貧困状況下に暮らしているという実態を社会全体に呼びかけ、機会平等で排除されるもののないひとつの社会をみんなで作りあげていくことをビジョンに掲げている。ミッションは、学生とコミュニティーによる家の共同建築を通して、
①学生たちの自分たちが住む社会に対する意識向上
②コミュニティーと社会との繋がりの構築
③家族の生活の質の向上
である。

「家」と言っても、建設するのは「emergency housing」という木材の壁と床、スチールの屋根でできた、寿命5年の仮住まい。材料費の1割を各家族が負担するほかは、国際機関や企業からの支援で成り立っている。住居を必要とする多くの家庭を日頃から団体のボランティアたちが訪問し、生活を向上させていく積極的な姿勢があるか、プロジェクトに協力したい姿勢があるか、また収入や家族構成などを考慮したうえで、選定しているという。

屋根の骨組をつくる学生ボランティア
未整備の急な斜面

今回のプロジェクトでは、10月21日(金)から23日(日)までの3日間で、約500名の学生が70棟の家を建設した。場所は、San Juan de Luriganchoの中でも新たに移動してきた人々が住み始めている、まだあまり開発されていない区域で、削られた山の斜面にレンガで出来た家、板が組み合わされて出来た家などが不揃いに立ち並んでいるというところだった。
山の斜面はとても急で、階段もまだしっかりと整備されておらず、一歩足を踏み外したら下まで転がっていってしまいそうなほどだ。降りるのが怖いといって泣いて母親にしがみつく幼い子供も見かけた。家の基礎は積み重ねられた岩だけで補強されており、隙間だらけで、上を歩くたびにポロポロと岩のかけらが落ちていく箇所もあった。

今回、私たち8人のグループが担当することになったのは、10歳と14歳の二人のお子さんを持つ30代半ばのご夫婦の家だ。 最も重要な家の基礎を建てるのに半日がかりだった。床が平らになるように計測しては掘ったり埋めたりの繰り返しで、到底2日間では終えられるようには思えなかった。気がついたら霧がかかって肌寒かった朝も、いつのまにか日のジリジリと照りつけてくる真夏の昼間になっていて、それもまた私たちの気力を奪っていった。そんな中、お母さんが私たちに冷えた飲料や昼食の差し入れをしてくれたり、2人の子供たちが少しでも力になろうと地面を平らにならすのを手伝ってくれたりした。仕事で出かけていたお父さんまでもが、合間をぬって駆けつけてきてくれた。

家族とのコミュニケーションを取りながら作業していくことで、ついひと事になってしまっていて、「家を建てる」という表面上だけでしかなかった私の行動に、家族が新たな生活をどんな気持ちで待ち望んでいるのか、もし自分が家族の一員だったらどうだろうという、相手への想像力と気持ちがだんだんと加わっていった。

家の基礎ができ床が敷かれると、子供たちははしゃいで床の上に寝転がったり、扉が設置されるとそこから何度も出たり入ったりを繰り返していた。そんなわくわくしている子供たちを見ていると、自分の幼かったころを思い出した。建設されている新しい我が家を毎日のように見に行って、同じところを何度も何度も行き来したり、新しい家に帰るのが楽しみで、学校が終わるといつも友達を連れてきて遊んだりした―。

emergency housing 寿命5年の仮住まい

「家」は「住む」ためだけのものではなく、「生きる」という私たちの人生そのものであり、出発の場所、帰る場所であると感じている。だから、私たちが建設している家は「emergency housing」と呼ばれる仮の住まいではあるけれど、家族にとっては共に過ごし、安らぎ、子供たちが成長していく、数年ではあるけれど家族の思い出がたくさん詰まっていく家、ただの仮の住まいではないのだということを改めて実感し、「しっかりとした家を建てていかなければ」という私の気持ちはますます強まっていった。

1日目は基礎作りに手こずったものの、夜8時までには屋根の基礎作りまで進んだ。2日目(最終日)は屋根を取り付け、窓とドアをはめ、後片付けと除幕式のみ。新しく出来た屋根のもとで家族と食べる昼食は、家族と私たちの繋がりをより強く感じさせてくれた。夕方には全工程が終了し、引越しが始まった。机やテレビ、タンスがどんどんと置かれていき、新たな家に今までの家族の暮らし、思い出が加わり広がっていった。これからここでどんな時間を過ごしていくのか、どんな家族の思い出を作っていくのか、子供たちが私くらいの年齢になったときにまた再会したいと思った。

それが今回、家族との共同作業を通して、話し、コミュニケーションをとっていくことで、ペルーのまた違う現実を目の当たりにしたと同時に、そこに暮らす家族たちがどのような状況で、何を思い生活しているのかを頭で知るだけではなく、心と体でも感じるができた。

今回の経験がこれからどのような方向に繋がっていくのかはまだわからない。しかし、もし次、街中でこのような状況に遭遇したら、少し足を止め、考え、想像してみようと思う。想像力は、社会を変えていく鍵になるに違いない。

石垣の上に建つ新しいおうち

レポートその②→高地アマゾン ティンゴ・マリア(Tingo Maria)より
レポートその③→熱帯アマゾン イキトス(Iquitos)より

 

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