レポートその①→Un Techo Para Mi Pais
レポートその②→高地アマゾン ティンゴ・マリア(Tingo Maria)より


ペルー熱帯ジャングルの都市
IQUITOS (イキトス)より

ペルーと聞くと、アンデス山脈の荒涼とした景色を思い浮かべる人が多いだろう。しかし実は、ペルー国土の60%以上を占めるのは、ジャングル地帯である。標高が高く、朝晩は冷え込む、爽やかな暑さの高地ジャングル地帯もあれば、アマゾン川が流れ、太陽がジリジリと照りつける、まさに「熱帯ジャングル」という言葉通りの低地ジャングル地帯もある。
今回は、アマゾン川の流れるペルー北東部の都市、イキトスへ行き、川沿いの市場で働く一家のもとで1週間ともに暮らしてみた。

移動手段としてよく使われる船

イキトスは、首都リマから飛行機で1時間半。船で行くにはバスでアンデス山脈を越え、そこからさらに船で4、5日ほどかかる。陸路でのアクセスが不可能なことから、陸の孤島と呼ばれている。不法なコカ栽培が盛んに行われており、またコロンビアとブラジルと国境を接しているため、近隣諸国から多くの移民が流入している。至るところに警察官が配備され、外国人が1人で歩くにはなかなか危険なところだ。ナンバープレートを持っていない、偽タクシーも山ほどいる。

ベレン市場。川を渡って人々が訪れる。

そのイキトスの中でも特に危ないとされているベレン地区に行ってきた。ベレン地区は多くの貧困層が住み、イキトスで最大の市場が街の中央部から川岸にまで地区全体に広がっている。野菜や魚、衣料品、動物、アマゾンの薬草など、ありとあらゆる商品を売るお店が何千件も立ち並び、初心者には道の判別がつかず、迷ってしまうほど広く、常時多くの買い物客で賑わっている。蒸し暑く、たくさんのフルーツと魚の独特の臭いに包まれたアマゾン地方ならではの市場だ。

私がお世話になった一家の両親は、この市場でバナナの葉を売っている。5歳から26歳まで8人の子供を持ち、リマで働いている長男以外は、全員、ひとつ屋根の下で暮らしている。長女夫婦と生後数ヶ月の子供をあわせると、総勢12人の大家族だ。

ベレンの朝はとても早い。両親は明け方4時頃、市場で売るための葉を近くの港まで買いに行く。まだ外は薄暗いが、家の隣にある酒屋さんは町中に鳴り響くほどの大音量でラテン音楽を流し、営業を始める。隣が覗けるほどの隙間だらけの壁は、風通しはいいが、音の聞こえもとてもいい。それが目覚まし変わりか、子供たちも5時には起きて、家中を走り回る。

両親が市場へ仕事に行っているため、朝食は女の子たちが率先して作り、その間、男の子たちは使う水を何杯も用意したり、洗濯物をしたりする。学校は二部制で、午前と午後の部がある。次女が学校へ行く午前中は、長女と三女で朝食の支度をし、昼食と片付けは次女がやるという決まりだ。

イキトスでの食事のメインは、食用バナナを揚げ、それをすり潰しボール状にした「タカチョ」というものだ。食用バナナなので甘くなく、食感はパサパサしてキャッサバのようだ。収穫される量が多く安いため、米の代わりとしてほぼ三食食べられている。副菜は川でとれた白身魚をバナナの葉で包み、炭火で焼いたもの。油を使わないのでサッパリしているが、葉で包まれ、魚のうまみが凝縮されている。日本では日本人の魚離れが言われているが、イキトスでは小さい子供もみんな手を使って、頭の方まで全て食べ尽くす。

昼食を済ませると子供たちはシャワーを浴び始める。シャワーと言っても、冷たい水がいっぱい貯めてある大きなバケツだ。夜では肌寒いので、太陽が照りつけ蒸し暑い真っ昼間に浴びるのが一般的である。雨季には近くを流れる川が増水するため、ベレンの家は多くが高床式になっているのだが、シャワーを浴びるのはその家の下。一応、板の壁で隣の家とは視界が遮られてはいるものの、隙間だらけに加え、辺りが見渡せてしまうほど低い。

20メートルほど離れた市場で買い物をする人々を見ながらのシャワーだ。たまに隣の家の住人が出てくることもあり、そのときは本当にひやっとする。さらに、初めて見るアジア人の私にこの家の子供たちは興味津々なようで、シャワーを浴びるときでさえ、窓からじっと見つめてくる。このシャワーが、ベレン滞在中でもっとも気の抜けない時間だった。

12人分の服を洗濯する兄

ベレンに限らずペルーでは、テレビが生活時間の大部分を占める、大切な娯楽だ。夕方4時ころ両親が市場から帰ってくると、家族揃ってテレビの前に並び、午後8時ころ就寝するまでずっとドラマやコメディをみんなで見る。しかし、ベレン市場近辺に住む家庭でのテレビ普及率はそれほど高くなく、家から外を眺め、道行く人々をじっと見つめている、という人が多い。知り合いが通りかかれば声を掛け、立ち話をする。そんなゆったりとした自由な時の流れがベレンでは感じられた。

熱帯地方ならではの自由で陽気な時間が流れているように見えるベレンだが、実際には数多くの問題が存在する。例えば、近くに住む華奢な女の子は15歳にして2人目の子供を妊娠中である。相手は近所に住む男ということだが、誰が本当の父親なのかが分からないことが多い。

親と一緒に暮らしてはいるが、かなりの放任主義のようだった。このように子供にあまり関心を持たない親が多く、酔っぱらいがうろつく道端で夜遅くまで幼稚園生ほどの子供たちが遊んでいる場面をよく見かけた。そのような光景を当たり前のように目にして育つ子供たちの中には「勉強なんてしたくない」と、学校へ通っていない子供や若者も多くいるようだ。親の教育に対する意識の低さも問題だろう。また、家の仕事を手伝わなければならないために学校へなかなか毎日登校できないという子もいる。

川に浮かぶ水上ディスコテカには早い時間から小中学生ほどに見える女の子たちがミニスカートとハイヒールで出入りしていた。子供たちの早期からの飲酒がペルー全土で問題になっている。また熱帯地方ではコカなどの薬物の栽培がされていたり、特にイキトスは隣国からの密輸入が行われていたりするため、子供たちがその危険にさらされる可能性も非常に高い。親の目の届かぬところで自分の身を守ることをきちんと知らない子供たちが、興味本位で飲酒や薬物に手を出してしまう。それを止める大人たちもおらず、子供たちはどんどんその誘惑に引きずり込まれていってしまう。

無邪気に遊ぶベレンの子供たち

5歳ほどの子供が1人でボートを漕いで川の向こう岸へ渡れるというように、自分でなんでも出来る自立した人間になれるようにという親の放任主義や、子供が親の仕事を手伝うのは当たり前ということが、イキトスでは文化の一部なのかもしれない。日本では幼稚園児が夜遅くまで外で遊ぶということは絶対に有り得ないが、過保護すぎるのも子供の成長にはあまり良くないのかもしれない。しかし、子供を悪い影響から守る、幼稚園や学校に通えるチャンスを与え、道を開いてあげるということに対する親の意識変化や関心の向上がイキトスではもっと必要なようだ。

川が増水するので、高床式の家がベレンには多い

世界には様々なレベルと段階の国々がある。すべての国を同等にと、焦って行動を起こすのは良くない。文化や習慣など良いところを残しつつ、その国・地域のリズムで変えていくことが必要だ。昔、日本がそうだったように、まだまだ発展途上にあるペルーでは今は難しいかもしれないが、これから少しずつ改善されていくのではないかと思う。


レポートその①→Un Techo Para Mi Pais
レポートその②→高地アマゾン ティンゴ・マリア(Tingo Maria)より