en la ” CUNA ARENITAS ” / 保育園での日々

いよいよ仕事の話だ・・!そう思って少し緊張したのを憶えています。就寝前のあいさつの為リビングに居るAnaのところへ行くと、「ちょっと話しましょう、あなたのここでの仕事のことよ。」と話しかけられたからです。

私は「ボランティア」という名目でペルーはVillaに来ましたが、到着してからの数日間で、語学力の足りなさを自他ともに思い知っていました。スペイン語は全くといっていいほどわからない、また英語も、日常を過ごすにはイマイチのレベル。分厚いスペイン語の辞書を持ち歩き、わからない単語や表現をメモに書き残しながら会話をするので、相手にいつも2~3度同じことを言ってもらいながら時間をかけて話をしていました。Villa滞在中に何人か、過去にArenaで活動したことがあるというボランティアOG・OBに会いましたが、皆語学が堪能で、世界規模に活動をする人物たちでした。正直、その度にちょっとした後ろめたさを感じていました。「私に語学力があれば、もっとやってほしい仕事がたくさんあったろうに・・」と考えずにはいられませんでした。どうやら私の脳みそは、語学に機能を発揮する要素はあまり無いようです。

Anaは私を家のパソコンの側に呼び、まずはゆっくりと話しかけてくれました。
「あなたがスペイン語をわからないのはよくわかったわ。今の状態で、10代の子たちと一緒に活動するのは厳しいと思うの。だってあの子たちはどんどん早口で話しかけてくるもの。あなたに対してはゆっくり話す必要があるってことをいつも意識していられる子は少ないと思うわ。あなたが道具(旗)をつかって子どもたちと何かしたいという気持ちはわかってる。だけどまずはもう少しスペイン語を理解しなくてはね。それからもちろん、仕事もしてもらおうと思うわ。あなたにお願いしたいのはね、“Cuna”よ。」そう言うと、Anaはパソコンでインターネットを開き、Google翻訳のページを出してくれました。

Cunaとは、スペイン語で“ゆりかご”や“ベビーベッド”のことです。幼児や児童にまつわる言葉によく用いられ、例えば“Casa Cuna”だと“児童養護施設(直訳:ゆりかごの家)”となります。Anaの言うCuna(正式名称を『Cuna Arenitas』)は、Arenaの活動の一環として運営している、いわゆる“保育園”のことでした。

Anaが説明してくれたことによると、Cunaは、家計の為に働きながら子育てをする母親を少しでもサポートしたいと、2014年の4月に創設、開所されました。Arenaが管理する劇場施設の一室を整備し、生後7ヶ月から3歳までの乳幼児を受け入れています。運営にあたっては、政府や企業からの資金援助を期待することはほぼできないとのこと。施設の維持費や子ども達の食費、3人居る職員のお給料は、子どもを預ける母親達の持ち寄りで賄っています。私の知識が足りないのでうまく言えませんが、イメージは日本の無認可保育所、という感じでしょうか。

私の語学力を考えると、まだ言葉もおぼつかない幼児たちであれば、複雑な会話を要せず一緒に遊ぶことができる。また、来て初日に1歳半の娘が人見知りせず遊び相手として認めている。この2点が、Anaの中で私とCunaの仕事を繋いだようでした。また、ちょうど新しいスタッフを探しているということもあり、ひとまずは新しい人が決まるまで、私がお手伝いするということになりました。当初Anaが立ててくれた日々のタイムスケジュールでは、月曜から金曜の週5日、午前中はCunaで働き、午後はスペイン語学習に充て、土日はお休み、もしくはArenaの子どもたちのイベント出演や出張公演があればついて行って手伝う、というものでした。が、Cunaの仕事は毎日思いのほか忙しく、やはり週5日フルタイム勤務となりました。
かくして、私は保育士もどきとして働くことになったのです。

Arenaの劇場施設は2つ入口があり、ひとつは車通りに面しています。その入り口から階段を一つ上がると、Cunaがあります。キッチンとトイレ完備の、保育所として申し分ないつくりで、歩けるようになった子とそうでない子の遊び場所をある程度分けられるように、丸みのある木製の低い柵が設置してあり、やわらかいパズルマットが敷き詰められています。ちょっとしたお昼寝スペースもあります。キッチンは綺麗に整理整頓され、マットや寝具、おもちゃや道具類は、定期的に洗濯やアルコール消毒が施され、衛生面がしっかり意識された空間でした。

Cunaの一日は、こんな感じです。
私は朝8:30に出勤。ですが、メインスタッフは7:50には出勤しています。午前中は、音楽をかけたりブロックやボールを出したりTeatroに連れていってマット遊びをしたり・・・あの手この手で遊び、途中10:00ごろにはフルーツを食べる時間があって、12:00を過ぎたころに昼食。昼食後は食べこぼしで服はぐちゃぐちゃなので(笑)、着替えとオムツ替えタイムが入り、午前中のみの保育の子たちは親御さんやその他のご家族が迎えに来るので、子どもたちの持ち物をチェックしながらまとめておきます。お迎えが来た子たちを見送ったら、眠そうな子から寝かしつけていきます。子どもたちのほとんどはこのタイミングで寝てくれるので、スタッフはしばし平穏なランチタイムをとります。(ちなみに、私の滞在中の昼食は、Cunaで賄ってもらうことになりました) 子どもたちが起き出してくる14:30~15:00辺りで “マサモラ”というペルーではとてもポピュラーなおやつを、起きた子から食べさせ、また順に着替えとオムツ替えをします。

15:00以降、親御さんたちのお迎えが来始めるので、子どもたちの持ち物をまとめておき、遊びながら一緒に待ちます。その間、並行して室内の掃き掃除やおもちゃの片付けも行います。規則では16:00で閉園。・・なのですが、なかなか仕事を切り上げられない親御さんもいらっしゃって、17:00ごろまでお迎えが来ないこともありました・・。子どもたちを全員引き渡し、最後にゴミ出しをして、スタッフは終業となります。

終業が遅くなった日を除いて、私は退勤後さらに1時間、Arenaの事務スタッフであり、実質Cunaを取り仕切っているJanethに、スペイン語を教えてもらいました。

Villaに来る半月ほど前までお世話になっていた職場(上司の自宅兼オフィス)では、ちょうど1歳から2歳に成長してゆく上司のお子さんの遊び相手をすることがよくありました。その時はまさか自分がその子と同じくらいの子どもたちに囲まれて仕事をすることになろうとは全く思っていませんでしたが、関わり方や心身の発達について少しでも学んだ経験が、不思議な縁で繋がったものだなぁと感じていました。

体力作りでもあると思ってがんばろう、などと呑気なことを考えていた私ですが・・・体力の消耗は想像を遙かに超えていました。全てのことに必死だったからなのでしょうか、すんごく疲れるのです!最初の1週間は、とにかくとにかく疲れました。退勤して自分の部屋に帰りベッドに倒れ込むと、気づいたら朝になっていた・・ということもありました。知らない環境に居るという事、(当たり前ですが)尋常じゃないほどのスペイン語が耳から入ってくるという事、慣れない仕事について行くので精一杯だったという事、そして、子どもたちという立派な個としての人間たちの主義主張や選択行動が同時多発的に溢れかえっているという事。世の保育士さん、ベビーシッターさんはなんて、なんて偉大で有難いのだろう!Cunaでの日々が私の中に、大きなおおきな尊敬と感謝の念を根付かせてくれました。

子どもたちは皆とーっても個性的で、気分屋で、泣き虫で、甘えん坊で、わがままで・・そして、とてつもなく、とんでもなく、かわいい子たちばかりでした。
お母さんと離れるのが悲しくてほぼ丸1日泣いている子。ふとした瞬間に他の子を叩いてしまう子。ふとした瞬間に他の子に噛みついてしまう子(私も何度か噛まれましたが結構本当に痛かったです…)。なんだかずーっと言葉を発して一人でお喋りし続けている子。ニコニコしながらいたずらしてる子。こだわりや自己主張のの強い子。あまり自分の感情を表に出さない子・・・本当に色々でした。

私は結局4ヶ月半Villaに滞在させてもらえる事になり、その多くの時間をCunaで過ごしましたが、その間に何度か、子どもたちの入れ替わりがありました。最初、お手伝いを始めた時は5~6人位でしたが、ピークには13人の子どもたちを抱える保育所となりました。Cunaに慣れることができない子も居て、1週間で来なくなる子も居ましたが、1週間を越えるともうすっかり仲間入りでした。それでも、場所に何となくは慣れたけれど人見知りがち、という子も居ました。 

言葉かけができない私は身振り手振りと表情で子どもたちに受け入れてもらえるよう、安心してもらえるよう努めました。ですが、東洋人の顔が怖いのか、私だけは苦手なようで、見ると泣きだす子も居て、残念ですが全く仲良くできなかった子も居ました…。

また、子どもたちと接していてちょっと気づいたことがあります。それは、子どもの安心は胸の大きさが関係していることがある、ということです!!いえ、これは真面目な話で。泣いていたり、眠そうだったりと、色々な場面で子どもたちを抱っこする機会は多いのですが、私の抱っこでも大丈夫な子と、私ではどうしても嫌がって、ある特定のスタッフだと落ち着く子とが居ました。もちろん、子どもの抱き方、そこで伝わる抱く側の心もちの違いもあるでしょう。明らかに私は子どもに関わるという事に於いてド素人でしたから。ただ、平たくは大体皆私に慣れて一緒に過ごしてくれて、私も何度となく抱っこをせがまれて喜んで抱っこをしていました。ただ、数人の子は、私に抱っこされるとしばしの間は大人しいのですが、少しするとなんだか居心地が悪そうに頭の位置を何度も変え始め、やっぱり違う!と言わんばかりに泣き出してしまうのです。そして、別のスタッフが抱っこすると安心して落ち着くのでした。

なにが違うのだろうか?そう思って自分の抱き方を見直してみたり、他のスタッフの抱き方を観察してみたりしましたが、あまり変わりなく・・。そして、ある時ふと思い当りました。繊細に抱き心地を感じている子のお母さんたちは、皆バストサイズが大きいのだと!!南米の女性の多くは、豊満なボディをお持ちです。特に胸囲は恐らく平均してもEカップ程度。Cunaに子どもを預けるお母さまも、半分以上は豊かなバストをお持ちでした。そして、繊細な子どもたちが大人しく抱かれているスタッフも、豊かなお胸。私はというと・・小柄な日本人サイズの、そのまた輪にかけて小サイズ。身長も、腕や足の長さも、そして胸囲も・・。日本で友人知人のお子さんたちを抱っこする分には、お母さんと大差ない場合もあるので気にならないのでしょうが、言葉や文化以前に「人種」として体つきの違う土地に於いては、私の抱っこは物足りなさすぎるでしょう(泣) 体つきは自分ではもうどうにもできないので、何かあった時の抱っこは(気にしない子たちをのぞいて)基本的には他のスタッフを頼り、私はサポートにまわりました。・・とは言え、体格の要素がどれだけ関わっているかは不明ですし、単にやはり私の抱き方の問題だったのだろう、とは思っています。

一緒に働いたスタッフ達も、とても素敵な人ばかりでした。言葉もわからない、育児経験も、保育経験も無い私を、本当に、ほんとうにあたたかく受け入れ、つつみこみ、たくさんのことを教えてくれ、大きな愛情を以て、一緒に過ごしてくれました。私がCunaでやっていけたのは、Cunaを愛しいと思えたのは、間違いなく、彼女たちの存在があったからです。子どもたちのかわいさだけでやっていける世界ではありません。彼女たちの人柄と働きがあってこそ、Cunaは単なる保育所ではない、子どもたちの「第二のお家」だったのだと、心底感じています。

左からMaryori,Pilar,Corinaさん、私、Janeth

最年長のCorina(コリーナ)さんは、主にCunaでの食事を担当していました。後で聞いた話ですが、元々はTeatroのクリーン業務を担っておられ、Teatroで何かイベントがあり、その際にドリンクやフードの用意が必要な場合には、調理も担当していたそうです。Cunaが開所するに当たりスタッフが足りなかったため、急遽Anaが相談をもちかけ、Cunaの方で働いていただく事になったそうな。ご自身は3人の育児をしてこられているので、保育面でも大いにCunaを支えています。Corinaさんの料理は、お世辞抜きで、レストランで食べるか、それよりも美味しい!Cunaで食べるCorinaさんの料理が楽しみすぎて、いつもランチタイムが待ち遠しかったのを憶えています。また、美味しさもさることながら、とにかく手際の良いこと!準備、調理、片付けまで、美しいほどに段取りが良く、感動しっぱなしでした。ペルー料理も色々教えてくれ、Fiesta(お祭り)に連れて行ってくれたり、お家に招待もしてくれました。30代半ばの方だったのですが、感覚では、なんだか母親のようでした。

大人っぽくて色気のあるMaryori(マルジョリ)はまだ19歳!背が高めで、南米の女性らしい体つきをしていて、初めは年上だと思っていました。敏感な子たちが落ち着いて大人しく抱っこされているというスタッフは、彼女です(笑) 母親が美容師という事もあって、ヘアーアレンジはお手の物。よく女の子たちのヘアースタイルをかわいくセットしてあげていました。工作も得意で、ペルーの祝祭日にちなんだモニュメントや、子どもたちのバースデーお祝いの際の装飾を、よく担ってくれていました。伝統舞踊のダンサーでもある彼女は、決まった曜日にはCunaの退勤後に自分のグループの練習に出かけていたようでした。また、Arenaの出張案件でダンサーの人出が必要な時も、様々なダンスジャンルで出演していました。何度かダンスを見せてもらいましたが、目が釘付けになるほどに見惚れる踊りです。数ある伝統舞踊のステップのほんのいくつかですが、彼女から伝授してもらったことはとても楽しい思い出です。多彩な面で美的センスを発揮するアーティスト、といった印象もあるMaryoriですが、基本的には果てしないやさしさを持った、あたたかい女性でした。

1番仲良くしてくれたのが、20歳のPilar(ピラール)。瞳が大きい、インド風な顔つきが特徴のとてもかわいい女性です。子どもたちのことを1番よく見ているなぁと感じたのは彼女。子どもたちを心から愛しているのだということが、あらゆる場面でひしひしと感じました。面倒見が良く、Cunaで一番色々な事を教えてくれたのは彼女でした。Cunaで憶えたスペイン語の数々は、彼女が根気よく教えてくれたものです。おかげで、私はスペイン語の中でも特に、保育の現場で使われる単語をより多く吸収できました。日本の事にも興味を持って話しかけてくれ、私が少しでも早く慣れるよう、気遣ってくれました。日本のことが話題に上るととても安心するものですね、私の表情にも表れていたのか、日本での生活のこと、日本の文化(特にアニメや音楽のこと)を話題にしてくれました。ちなみに、元々ペルーが日系人・日系コミュニティーも多いからなのか、ArenaやCunaをはじめ、Villaの街中やLimaの市街地でも、人々はあたたかく対応してくれました。わかる範囲で話を聞いたり、様子をうかがっている限り、マンガ、アニメや、そこから付随する音楽など、いわゆるソフト面かつ比較的新しい日本の文化が、若者たちを中心に結構人気があるようでした。リアルタイムで「ドラゴンボール」のアニメが放映されていたこともあって、Pilarとはよく“カメ・ハメ・波”をやりあって遊びました。その時の子どもたちはポカンとして私たちを見ていました(笑)。ハツラツとして明るい彼女の笑顔に、何度助けられたか知れません。

スタッフになるには、日本と同様、幼児教育を学んできたか、保育の現場で働いた実務経験があるかどうか、が条件だそうです。Pilarは専門機関で学んできているし、Maryoriも以前、他の保育現場で就業した経験があるとのことでした。(CorinaさんはAnaや他のArenaスタッフからの信頼が厚く、自身の育児経験があるので、資格を問わず働いてもらっているのだそうです。)本当に、本当に頼れる先輩たちばかりで、そして、人としても保育の面でも、尊敬できる人たちでした。

そして、Cunaだけでなく、Arenaの活動においても最初から最後までお世話になったのが、Janeth(ジャネット)。私より一つ上の27歳ですが、一児の母で、息子くんもCunaに通っています。(何を隠そう、よく誰かを噛みついてしまう子がJanethの息子くんです(笑)) 最初に会った時には、実は怖そうな人だなと、少し構えていて、面と向かうと緊張していました。が、多くの時間を一緒に過ごしてゆく中で、とてもおちゃめでかわいい事、頭の回転が速くテキパキ仕事をこなせる事、ちょっと人前で話すのは苦手そうで意外と緊張している事、表現力の豊かなパフォーマーであり女優である事・・・たくさんの魅力に溢れた女性であることがわかり、日本に帰る頃には、彼女を実の姉のように感じていました。冗談でからかわれることもありましたが!それも今は、私が良い意味で馴染むことができた証拠かな、とも思っています。

創立1周年記念

4月はちょうど保育園の創設1周年記念で、最終週の土曜日にはアニバーサリーイベントが開催されました。イベントと言っても、Cunaでの日々を親御さんに報告したり、一緒にごはんを食べたりするささやかなものですが、Cunaにとってはとてもとても大切な時。そんなタイミングにVillaに訪れ、そして携われたことが、なんだか不思議でありがたいなぁと、しみじみ感じたものでした。
新しいスタッフが入るまで、という話でしたが中々見つからなかったようで、結局私の滞在がいよいよ終盤、という時期に差し掛かるまで、私の日常はこのCunaとともに在ることになりました。